3Dプリンターのプリント品の表面を滑らかにできる溶剤はないかと検証してみました。
今回検証したのは以下の4つです。
- ファインソルブE
- ツールウォッシュ
- ネイルリムーバー
- アセトン
本記事内で取り上げている溶剤を取り扱うときは、必ずニトリル手袋と呼吸用マスクを着用して火気の無い換気の良い場所で作業してください。
ここで結論だけ先に書いてしまいますと、以下の表のような結果となりました。
PLAを溶かす溶剤4つの検証結果比較表 | ファインソルブE | ツールウォッシュ | ネイルリムーバー | アセトン |
---|---|---|---|---|
積層痕の変化 | 高さ方向の積層痕が10分で消失 | ほぼ変化なし | ほぼ変化なし | ほぼ変化なし |
表面の変化 | 白化して薄い膜で覆われたような仕上がり | 銀色のツヤが抑えられマット調に | 白く塗装したようになるが爪で剥がれる | 銀色のツヤが抑えられマット調に |
ディティールへの影響 | ディティールが丸くなりピン角がR0.2㎜程度になる 船底がぼこぼこした | ディティールはほぼそのまま | ディティールはほぼそのまま | ディティールはほぼそのまま 船底がぼこぼこした |
特記事項 | 液だまり部分で白い粉状の変化が発生。側面に大きなへこみあり。浸ける方法に課題。蒸気や塗布方法が推奨される。 | 積層痕への効果は薄いが、つや消し仕上げに有効。特定箇所に軽微な変形が発生。 | 簡単に削れる真っ白い塗膜が形成される。コーティングなどで塗装表現の1つとしては活用可能。 | 白化が目立つ。液面ラインでの白化と船底のぼこつきが発生。やはりPLAには影響が薄い。 |
- 積層痕の効果を期待する場合: ファインソルブEが最適。ただし、液だまりや浸け込みに伴うリタッチが必要。
- マット調仕上げを求める場合: ツールウォッシュやアセトンが手軽で有効。
- 特異な塗装表現を試したい場合: ネイルリムーバーが選択肢に。
ファインソルブEはノズルの清掃でたびたびお見かけする溶剤です。アセトン、シンナー類、ジクロロメタン(塩化メチレン)の代替品として界隈では実績の多い製品です。
ツールウォッシュは私の家にあって塗料を強力に溶かすその力でフィラメントも溶かせるのでは?と思っていたから今回のラインナップに入れてみました。
ネイルリムーバーはアセトンの代替品としてドラッグストアで簡単に入手できる入手性の良さを評価しました。
アセトンは安定の本命ですね。ABSの接着に使われるド定番の溶剤です。でも入手性が悪いんですよねー。
今回検証したのは、3Dベンチーの底部を10分間溶剤に浸した後完全に乾かして状態を比較する。というものです。これから沈没する3Dベンチーをまとめてプリントしました。今回使用したフィラメントはCC3DのシルバーのPLAです。CC3Dはシルクも金や銀の色味が良く、全体的に安くてプリント精度が高いので、推しているメーカーの1つです。
PLAフィラメントを溶かす溶剤は?『ファインソルブE』『ツールウォッシュ』『ネイルリムーバー』『アセトン』を10分間浸けてみた
10分後の姿がこちら。
左から順に『ファインソルブE』『ツールウォッシュ』『ネイルリムーバー』『アセトン』の結果です。明らかに1つ残念な奴が混じってますね(汗。
使用後の溶剤は『ファインソルブ』『ネイルリムーバー』『アセトン』『ツールウォッシュ』の順で綺麗でした。
ファインソルブEの結果
ファインソルブEはとろみのある液体で、他の溶剤と違い揮発しなかったので、ティッシュで拭き取る必要がありました。アセトンとは次元が違うレベルで臭気がないのはかなりの好ポイントです。浸けた結果はというと、高さ方向の積層痕が消えていました。最初に結論を書いてしまいますが、高さ方向の積層痕が10分でなくなったのはファインソルブEだけでした。表面は薄い膜で覆ったような感じで、ディティールが丸くなったかなという感じで、ピン角がR0.2㎜ついた感じです。ファインソルブEが付いた箇所は溶けて白化しており、銀色から灰色といった感じに若干乳白色が足されたマットになったといった感じでした。また境目は線が入っていました(溶けて縮んだという印象はありませんが)。特に液だまりしやすい船内隅は白い粉が吹いたように白くなっており、リタッチが必須だと感じました。溶剤に付け込んだ箇所はゴムのようにぶよぶよした触感でしたが、完全乾燥と共に硬化していきました(若干のクッション性が残りましたが)。船底は若干ぼこぼこしてしまっており、側面に1か所大きなへこみが発生しました。溶剤に付け込んで内部に液体が侵入して、拭き取れなかった部分との硬化速度の差がこのような現象につながったと思われます。
積層痕が消えたという重大なメリットがありつつ、発生した問題点は総じて「浸ける」という行為に起因するものだったので、溶剤が気化した蒸気中に置く、吹き付ける、塗る、などの表面のみに影響する手法であればより良い結果が得られそうでした。白化に対しては、選択するフィラメント色をマットにしたり、塗装前提で考えるなどの方法で解決できそうです。
ツールウォッシュの結果
ツールウォッシュはアルコールのような液体で、空気中ですぐに揮発する溶剤でかなり強い溶剤臭がします。浸けた結果はというと、高さ方向の積層痕はほぼ変化がありませんでした。表面は銀色のツヤが抑えられマット味が強くなりました。ディティールはほぼそのままです。穴周辺のみ白くなっており、リタッチが必須だと感じました。ファインソルブEで側面に1か所大きなへこみがあった箇所が輪っか上にうっすら盛り上がっていました。同じような変形傾向なので3Dベンチーの内部形状で変形しやすい箇所なのだと思います。この1か所以外に気になる変形はありませんでした。
積層痕は変化せず、つやが消えマット調になった位しか変化がなかったので、ツヤを無くして落ち着いた雰囲気にしたい場合には使えそうです。
ネイルリムーバーの結果
ネイルリムーバーはアセトンに香料や爪へのダメージを軽減する成分が添加された液体で、空気中ですぐに揮発する溶剤でかなり強い溶剤臭がします。今回はPLA製の3Dベンチーでのテストなので、アセトンではPLAやPETGには効果が無いとされている中での検証です。浸けた結果はというと、高さ方向の積層痕はほぼ変化がありませんでした。表面は白く塗装したようになり、爪でひっかくと簡単に取れました。その下は銀色のままで、変化を感じられませんでした。ディティールはほぼそのままです。ファインソルブEで側面に1か所大きなへこみがあった箇所が輪っか上にごくわずかですがうっすら盛り上がっていました。同じような変形傾向なので3Dベンチーの内部形状で変形しやすい箇所なのだと思います。この1か所以外に気になる変形はありませんでした。
積層痕は変化せず、つやもそのままですが、溶剤に使った箇所は磨けば簡単に落ちる真っ白い塗膜のようなものに覆われるので、何かしらのギミックや、削り落ちないようにコーティングすることで塗装表現のテクニックの1つとして使う事が出来そうです。
アセトンの結果
アセトンは主にABSフィラメントに対してABS同士の部品を接着、溶解、表面仕上げするために利用されます。今回はPLA製の3Dベンチーでのテストなので、アセトンではPLAやPETGには効果が無いとされている中での検証です。空気中ですぐに揮発する溶剤でかなり強い溶剤臭がします。浸けた結果はというと、高さ方向の積層痕はほぼ変化がありませんでした。表面はツールウォッシュの時のように銀色のツヤが抑えられマット味が強くなりました。ディティールはほぼそのままです。ファインソルブEと同じく船底は若干ぼこぼこしてしまっており、ファインソルブEで側面に1か所大きなへこみがあった箇所は目視では分かりませんが触ると輪っか上にごくわずかですがうっすら盛り上がっていました。同じような変形傾向なので3Dベンチーの内部形状で変形しやすい箇所なのだと思います。アセトンが浸かっていた液面のラインや船体上部が白く白化していました。おそらく液状のアセトンが気化するとこの白化が発生するのだと思います。他に気になる変形はありませんでした。
船底がぼこぼこしたのはファインソルブEとアセトンの2つのみなので、PLAフィラメントの積層痕を消すほどの影響を与えられそうなのはこの2つだと思います。
結論:積層痕を消すならファインソルブE
積層痕を無くすという目的において、PLAを10分間溶剤に浸けるという条件では、ファインソルブEだけが良い結果を残すこととなりました。今回の検証結果は以下の表にまとめておきます。
PLAを溶かす溶剤4つの検証結果比較表
ファインソルブE | ツールウォッシュ | ネイルリムーバー | アセトン | |
---|---|---|---|---|
積層痕の変化 | 高さ方向の積層痕が10分で消失 | ほぼ変化なし | ほぼ変化なし | ほぼ変化なし |
表面の変化 | 白化して薄い膜で覆われたような仕上がり | 銀色のツヤが抑えられマット調に | 白く塗装したようになるが爪で剥がれる | 銀色のツヤが抑えられマット調に |
ディティールへの影響 | ディティールが丸くなりピン角がR0.2㎜程度になる 船底がぼこぼこした | ディティールはほぼそのまま | ディティールはほぼそのまま | ディティールはほぼそのまま 船底がぼこぼこした |
特記事項 | 液だまり部分で白い粉状の変化が発生。側面に大きなへこみあり。浸ける方法に課題。蒸気や塗布方法が推奨される。 | 積層痕への効果は薄いが、つや消し仕上げに有効。特定箇所に軽微な変形が発生。 | 簡単に削れる真っ白い塗膜が形成される。コーティングなどで塗装表現の1つとしては活用可能。 | 白化が目立つ。液面ラインでの白化と船底のぼこつきが発生。やはりPLAには影響が薄い。 |
- 積層痕の効果を期待する場合: ファインソルブEが最適。ただし、液だまりや浸け込みに伴うリタッチが必要。
- マット調仕上げを求める場合: ツールウォッシュやアセトンが手軽で有効。
- 特異な塗装表現を試したい場合: ネイルリムーバーが選択肢に。
ファインソルブEはアセトンやシンナー類の代用溶剤ですが、アセトンではカバーできないPLAの溶解が可能な点で3Dプリンターと相性が良さそうです。アセトンとは次元が違うレベルで臭気がないですし、揮発性がジクロロメタン(塩化メチレン)より低いので扱いやすいのも良いですね。ノズルの清掃の他にもプリントモデルの接着や表面処理として活躍してくれそうです。(ファインソルブEにフィラメントを溶かしこんでカラーパテ作るとか)いずれ時間が取れたらファインソルブEを細かく検証した詳細記事を書こうと思いました。
ファインソルブEを使うためにセット買いするならコレ!
溶剤の嫌な臭いも毒性も完全シャットアウトしてくれるのでマスクは買っておいたほうが良いです。
溶剤系の替えの吸収缶は黒、粉塵などの防塵性能もあるのは白です。
目に入ると大変なのでメガネなしのノーガードの人はゴーグル装着推奨です。
今回溶剤入れとして使ったケース。ポリプロピレン製で溶剤に強く、肉厚で中蓋もあるので蒸発しづらいです。値段も安いので数個あると色々使えて便利だと思います。
ファインソルブEとファインソルブTHとの違いは?
ファインソルブEにはよく似たファインソルブTHがありその使い分けに迷うかと思います。ファインソルブEとファインソルブTHの違いは以下の通りです。
ファインソルブEは樹脂溶解に特化している一方、ファインソルブTHは樹脂溶解と脱脂洗浄の両方を行うことができます。
そのため、洗浄したいものが樹脂類に限定される場合はファインソルブE、作業上で脱脂と樹脂溶解のどちらも行う必要がある場合はファインソルブTHをお勧めします。(ファインソルブTHの樹脂溶解力はファインソルブEよりは劣ります)
・ファインソルブE:樹脂類(塗料・インク・接着剤)の洗浄のみ。
・ファイソルブTH:加工油や皮脂の除去などの脱脂洗浄+樹脂類の洗浄
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