ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)は、低コストでありながら、高温に耐えられる頑丈で耐久性のある部品を印刷するのに適した素材です。
概要
ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)は、3Dプリンティングの世界で長い歴史を持つ材料です。この素材は、産業用3Dプリンターで使用された最初のプラスチックの一つです。それから何年も経った現在でも、ABSはその低コストと優れた機械的特性のおかげで非常に人気のある素材です。ABSは、その耐衝撃性と頑丈さで知られており、頻繁な使用や摩耗にも耐えられる耐久性のある部品を作成することができます。この理由から、レゴブロックの素材にも採用されています。
さらに、ABSはガラス転移温度が高く、変形を始める前により高い温度に耐えることができます。そのため、屋外や高温環境での使用に適しています。ただし、ABSでプリントする際には、わずかな臭気が発生することがあるため、換気の良い開放的な空間で作業することが推奨されます。また、ABSは冷却時にかなり収縮する傾向があるため、ビルドボリュームやパーツ内部の温度を制御することで、大幅に品質を向上させることが可能です。
長所(メリット) | 短所(デメリット) |
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比較的低コストでコストパフォーマンスに優れている 優れた耐衝撃性と耐摩耗性 糸引きや垂れが少なくモデルの仕上がりが滑らか 優れた耐熱性で、屋外用途や高温条件下でも使用可能 | 冷却時の収縮で、造形中にモデルが反りやすい 温度管理が重要で、エンクロージャーなどが必要 印刷中に特有の刺激臭を発する 冷却に伴う収縮が大きく、寸法精度に影響を与える |
ABSの特性と特徴 | |
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印刷適性 / プリントしやすさ ※反り、詰まりなどの要因に基づいて評価 | 80点 |
剛性 / 硬さ ※材料の曲げにくさを測定する指標 | 50点 |
耐久性 ※熱、疲労、水分、紫外線、化学物質への耐性の組み合わせ | 80点 |
最大使用温度 ※荷重がかかった状態で材料が変形し始める最大温度 | 98℃ |
価格 | 1,500円~6,000円 |
密度 ※他の材料と比較してどれだけ重いか(軽いほど高評価) | 1.04g/cm3 |
飽和吸水率(25℃, 55% RH) ※空気から水分を吸込む能力。値が高いほど水分を吸収する能力が強くなる | 使用前に乾燥推奨 | 0.65%
乾燥条件 | フィラメントドライヤー:80℃, 8時間 X1Cヒートベッド:90~100℃, 12時間 |
焼きなまし(アニール) ※印刷後に一定温度でモデルを加熱し続けることで、内部応力の解放、機体的性能と耐熱性能を向上させる | 80~90℃ 6~12時間 |
ABSを快適に使うポイント
以下のヒントを活用することで、ABS特有の反りや臭いなど、一般的な3Dプリントの問題を軽減でき、より高品質なプリントを実現できます。
反りを軽減する方法
ABSの3Dプリントで最も一般的な問題の一つは反りです。プラスチックは押出温度から室温まで冷却される際に収縮し、この温度変化によって反りが発生します。特に第一層では、この収縮によりモデルがビルドプレートから剥がれ、プリントが台無しになることがあります。この問題を軽減するには、以下の方法を試してください:
- あまり大きなサイズや高インフィル密度のモデルを印刷しない
- 適切な加熱されたビルドプレートを使用する
- ビルドプレートを110°Cに加熱すると、熱がモデルの最初の数層に伝わり、収縮や剥離を防ぎます。
- 最初の層だけ押出温度を高めに印刷速度を低く設定する
- プリント開始時の最初の数層では、押出温度を通常より10〜20°C高く設定することで、剥離のリスクを軽減できます。カスタムする場合は『フィラメント設定』>『フィラメント』から行うことができます。
- エンクロージャーを使用する
- 大型の部品を印刷する際は、プリンター周囲にエンクロージャー(囲い)を設置し、モデル周辺の温度を高めに保つとよいでしょう。これにより、層が冷却される速度を均一にし、反りを防ぎます。また、エンクロージャーは風による急激な冷却も防ぎます。
さらに詳しい情報が必要な場合は、反りを防ぐための詳細な情報を掲載したプリントトラブルをご確認ください。
大きな部品や繊細な部品の密着を改善する方法
大型の部品や薄く繊細な部品では、ビルドプレートへの密着が十分でないことがあります。この場合、以下の追加方法を検討してください:
- ブリム(Brim)の使用
- ブリムはモデルの周囲に複数のプラスチックのリングを追加し、最初の数層でモデルのエッジを固定するための接触面積を増加させます。
- ラフト(Raft)の使用
- ラフトはモデルの下に新しいプラスチックの土台を作り、モデル完成後に取り外せます。Simplify3Dのラフト機能はバージョン4.0で最適化されており、より高速で効率的に印刷できるようになっています。ただし、大型の部品ではブリムの方が効率的な場合もあります。
ブリム、ラフト、スカートの違いや使い方についてさらに詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください:
ABSの臭いと有害ガスの対策
ABSを使用した印刷では、強い臭いと潜在的に有害なガスが発生することが知られています。これを軽減するには、以下の点に注意してください:
- 換気の良い環境で印刷する
- 狭い空間を避け、プリンターを十分に換気された場所に設置してください。
- 空気清浄機能の活用
- 最新の3Dプリンターには、発生源から直接ガスを処理する空気清浄システムやHEPAフィルターが搭載されている場合があります。
- 柔軟な排気ダクトを使用する
- プリンターに空気清浄機能がない場合、窓を開けたり、地元のホームセンターで購入可能なフレキシブルな排気ダクトを使って、ガスを屋外に排出することを検討してください。
ワンポイントテクニック
ABSのサポート材にPLAが使える
PLAはABSに強く接着しないため、剥がしやすいサポート材として適しています。この特性を利用して、複雑な形状の印刷を効率的に行えます。
ベッド接着の改善方法
ABSスラリーを使用することで、ベッド接着を改善できます。このスラリーは、ABSフィラメントの小片をアセトンと混ぜて自作し、その混合物をベッドに塗布することで作成できます。また、市販のパッケージ化された製品もいくつか購入可能です。
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